<それどころでない>座談会
作家・畠祐美子
代表・小島敏彦
制作・夏川正一
―まずは、劇団代表の小島さんから今回の公演について。
小島 今回創作劇奨励公演を行う一番の理由としては、いろんな作家と出会いたい。
新しい出会いから、現代を見つめてゆきたいということがありました。
今の時代に書かれる〈作品〉を、今の時代の〈人間〉が演じるわけですから、
当然、〈現代〉というものを〈作家〉も〈劇団〉も意識しないわけにはいかない。
そういう公演が出来たらと。
夏川 そこで、今日は、劇団朋友とは初めての出会いになります。
7月、俳優座劇場での公演『それどころでない人』の作者、畠祐美子さんにお話をお聞きします。
―「文化庁舞台芸術創作奨励賞佳作」、この作品で三回目の受賞ですね。
畠 平成2年から毎年出しています。ライフワークというか。
締め切りが毎年違うのですが、大体、お正月はいつも原稿を書いて過ごしています。
「一年の計は元旦に」って感じで。
―執筆の準備はいつから?
畠 夏休みくらいに、今年はこんな感じにしてみようと、
参考文献を集めておいて、後はほったらかして。
手がむずむずしてきたらパーッと。
―本を書く作業って大変ですよね。
畠 設定に無理がなく、登場人物のキャラクター設定が決まれば、
登場人物たちが勝手にしゃべってくれるんです。
それからお友達とお話していて「あ、これ使ってみようかな?」とか。
お友達に応用数学を専攻している方がいるんですが、
私は教育の話をしてるのに数学の話として返されたりする。
巷で言うところの〈無限〉と応用数学の〈無限〉ではぜんぜん意味合いが違って、
「そうじゃないんだよ」みたいな話になってくるとけっこう面白いです。
●この作品について
―今回の作品は喫茶店「時代おくれ」が舞台になっていますが、
畠さんにも行きつけのお店はありますか?
畠 いえ。でも、ああいうお店があったらいいな。
何種類ものコーヒーがあって、いつも、においが漂ってるような。
イメージとしては純喫茶ではなくコーヒーショップですね。
―この作品には様々な家族と親子、多彩な人々が出てきますが、どこからヒントを?
畠 自分自身が仕事を辞めることになって、そのとき、
男の人は仕事を辞めなければいけなくなり、
家に居るのってどんな感じなのかなと考えました。
以前、いろんな事情のある子供たちがいる学校に勤めていたんです。
家庭的にもバラバラ状態。家族がとても好きで、
すごく求めていてもコミュニケーションが取れない状態になってる家庭。
そういう家庭を見てきていたので、
そこにさらにお父さんのリストラがきたらどうなるのかと。
出来てた家庭が壊れるのはよくある話だけれど、
最初から壊れていたものが、よりを戻していくということで、
どうにか作品が出来ないものかと考えました。
この作品の中でも、皆がお互いの持ってきた話に〈それどころでない〉。
じゃなければ、どうなるのかなとか。ただ、つながっているから影響しあって、
〈それどころでない〉なりに少しずつお互いに引力で惹かれあっていくと、
熱を持って活性されていくのではないかと。
夏川 この作品の中には、いろんな要素が含まれていますね。
何しろいろんな家族が出てきますからね。
観客一人ひとりのいろいろな家族に、ほぼ当てはまってしまいますね。
畠 見ているお客様が何処かに引っかかってくれればいいなって思います。
夏川 ここ数年、いろいろなジャンルの作家、
演出家と、さまざまな出会いを重ねてきました。
その中で劇団員たちが切磋琢磨して、
いろんなことにぶつかりながら、新たな挑戦をしていく。
外部の作家、演出家の方々との出会いの中で、
自分自身についてのいろいろな発見がある。
この戯曲を読ませていていただいて、今回の演出の西川さんにご相談したところ、
西川さんも「この作品がいい」と。朋友は西川さんとは、この作品で五本目なんですが、
とても芝居が好きな方なんだなと、いつも思います。
畠 私の最初のイメージとしては、この本を劇団朋友の皆さんにお渡しして終わり、
「嫁に行った娘をよろしく」、と思っていたんです。
でも、劇団代表の小島さんの熱っぽいお話し振りや、
皆さん本当にお芝居がお好きで、すごく積極的に良くしよう、
良くするためならば時間かけようが、手間かけようが苦労は惜しまない、
そんな皆さんの精力的な取り組みが伝わってきました。
夏川 是非、畠さんのお力をお借りして良い作品にしたいと思い、
上演台本をお願いしました。
劇団に娘の成長ぶりをちょくちょくのぞきに来てください。
―ところで、この作品の中に出てくる、新大久保駅のホームから見える
〈壁にペンキを塗っている女の絵〉なんですけど。本当にあるのでしょうか。
畠 あります。本当、小さくて。以前は、もうちょっと大きいと思ったんですけど。
女の人がペンキを塗ってる絵なんです。
電車が高田馬場方面からホームに入る山手線の外側。ホームからも見えますよ。
小島 今もあるんですか?
畠 ありますよ。ま、少しづつリニューアルしている感じがあって、
「こんなところに窓なかったぞ」とか。
小島 宣伝物ですか?
畠 ペンキ屋さんの。
―看板娘ですね。
夏川 お近くの方は是非、行って見てください。
「なるほどこれがあの絵」って。
●憧れのひと、西川さん
夏川 西川さんへの期待感や注文はありますか?
畠 最初に賞を取ったときから審査員に加わっていらしたので、
ずっと見守っていただいていたんだなという感じです。
西川さんは覚えていらっしゃらないと思いますが、
ある劇団の受付をしたとき、20代の頃だったんですけど、
すでにお会いしているんです。すごく憧れの演出家であったし、
ズーッと西川さんの存在は憧れ、尊敬に近い状態で過ごしてきました。
このお話をいただいたときには「そんな夢のような」と、
ほぼ二つ返事でしたね。親族も大喜びしています。
自分もまたとないチャンスですし、今回、作家としてかかわらせていただき、
演出家の方がどうやって本と取り組んで葛藤していらっしゃるか、
扱ってらっしゃるか、本当に勉強になります。
いい機会を与えていただいたこと、感謝しています。注文とかはないですね。
「嫁に出した娘」ですから。
夏川 新しい人との出会いが、今までにない一ページを生み出す。
劇団にとって有意義なページになればという気持ちで取り組んでいます。
全国にも積極的に発信していけるような作品を
畠さんと西川さんと作っていければと思います。
そういう意味で、この作品の中で語られている〈家族の再生〉は、
人間の精神構造そのものが昔と比べてかなり複雑になってきた現代家族の
崩壊が前提にあって、それをもう一度、原点を見直すことで再生していこうじゃないかというのが、
今回のテーマにもなっているのではないかと思います。
―畠さんは今後、どんな作家を目指していらっしゃいますか?
畠 私は今後も現代劇をずっと書いていけたらいいかなと。
現代劇にこだわっていきたいなと思っています。
平成二年、東宝現代劇養成戯曲科の門をたたいた時、
「私は日本のニール・サイモンになりたい」と言ったんです。
ああいうテーマ、そして社会を切るような作品は翻訳劇に頼らなければだめなのか、
日本人が日本の現代社会を、ある視点でとらえていてテンポもよい。
そんな作家をずっと目指していけたらと思っています。
―本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。
新宿にて〈聞き手 松川美子〉
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畠 祐美子氏 略歴
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畠 祐美子 −はたけゆみこー 劇作家。東京都出身。 1992年 〈主な作品〉 |