今回の新作は、P・O・エンクイスト作 『一九一七年の三人姉妹』。
日本にはまだ紹介されていない作家ですが、
読み合せを重ねるたびにその重厚な内容が明らかになり、
俳優陣一同、驚嘆すると同時に、気を引き締めてそれぞれの役づくりに立ち向かっています。
昨年の秋、この作品がデンマークで上演された時の劇評を目にしてから、
英語版の台本を取寄せ、福田美環子氏に翻訳していただき、上演を決めるまでに約3ヶ月。
その後、デンマーク語からの翻訳も参考にし、
演出の西川信廣氏にも再三手を入れていただき、台本として第一稿を手にするまで約3ヶ月。
約半年間の期間を経て、第二稿の読み合せを終えました。
この作品はチェーホフの『三人姉妹』の世界を、
作家エンクイスト氏がまさに今、読み解き、新しい『三人姉妹』の世界を創り上げています。
それは、あの三人姉妹たちが、その後二十数年生き、
それぞれの人生を1917年の視点から見つめ直すという形で、
現代に生きる私たちに人間の本質を、生きることの意味を語りかけてくる、
とても興味深い作品になっています。
台本の設定では、あの長女・オーリガが73歳。
マーシャ、イリーナもそれぞれ60代、50代。
原作の計算上ではありえない設定ですが、そこに面白さがあります。
その三人が、一九一七年のロシア革命の直前に、それぞれの人生を語り始めます。
「何故、モスクワへ行かなかったんですか?・・・」
時間も空間も飛び越え、新しく創り出された空間で、
何が明らかにされていくのでしょうか?!
そしてその舞台から、私達は何を受け止めることができるのでしょうか?!
二十一世紀の扉が開かれた今・・・・・・。
演出の西川信廣氏は、非常に興味深い話をされました
「チェーホフの作品に登場してくる人物はみな心の一部が欠けているか、
逆に一部が肥大化している人々だと思う。
彼らは欠けた心を埋めようとして、または肥大化した心のままに長々とおしゃべりをして、
おのれ自身を保とうとする。そこに私達は人間の悲しさ、寂しさ、滑稽さを見る。
今回の作品『一九一七年の三人姉妹』は作者エンクイストが
過去と現在の時間軸を交錯させたことによって、
登場人物たちの心の空洞がより鮮明になっている。
そのことで原作の「三人姉妹」以上に人間の孤独感や先行きの見えない不安感、
そして、そこでもがく人間達の哀れさや滑稽さが強烈になった。
それは、便利で豊かな社会で生きながら、
孤独感や先行きの見えない不安感にさいなまれる現代の私たちと何処か重なる。
この作品は演出者の私にとって刺激的で心躍る作品である。
この作品の上演は、劇団朋友が新たな一歩を踏み出す、記念碑的な公演になるだろう。
同時に私自身も演出家として新しい自分に出会えそうな気がする。」
今回のスタッフは
前回の『わがババ〜』に引き続き、美術の石井強司氏、音楽の上田亨氏をはじめ、
長年西川氏と共に仕事をしている照明の山口暁氏、音響の望月勲氏、衣裳の山田靖子氏、
そしてメイク指導にはらだ玄氏と、気鋭のスタッフに恵まれました。
西川氏を中心に、俳優スタッフ一丸となって、来月から始まる本格的稽古がますます楽しみになってきました。
出演者の横顔を少し紹介すると
全国巡演の『わがババ〜』で豪快なおばあちゃん役を演じ
皆様に愛された菅原チネ子が、長女・オーリガ。
同じく『わがババ〜』で芸術祭大賞を受賞した長山藍子が、次女・マーシャ。
劇団員として今後が楽しみな木野しのぶが、三女・イリーナ。
そして文学座からは、ヴェルシーニン役としてはこの人をおいて他にはないと思われる
三木敏彦氏を迎え、
『わがババ〜』でも活躍した小島敏彦、小山内一雄、石川恵彩、深尾眞理、まきのかずこ、
岡本成師、その上に、進藤忠、松下惇も加わり、
劇団内オーディションの結果を踏まえ、充実したキャスティングにすることが出来ました。
一人一人の俳優が、奥の深い今回の作品に、意欲的に取り組んでいます。
今回の役柄について長山藍子は
「――幸せの小さなかけらを手に入れてはその都度失くしてしまったとしたら・・・・・・
人間、無情にも意地悪にもなるわ――
モスクワから遠く離れた小さな土地で暮らす三人姉妹の上に、
また長い歳月が流れて、六十代になったマーシャが独白するこのセリフには、
背すじが寒くなるような凄みを感じます。
マーシャはいつも怒っています。
マーシャはいつもいらだっています。
マーシャの「今ここにあることへの怒り」の裏側に深く静かにひそむ、
閉塞感、絶望的な哀しみ、を理解し愛することが、
マーシャを演じる私のこれからの戦いにちがいありません。
演出の西川さんを中心に、今回客演して下さる文学座の三木敏彦さん、
劇団朋友の仲間達と、熱く激しい稽古がはじまっています。
幕が上がり、観客の皆様とどのような空間を共有することが出来るか――
長い年月舞台を創ってきましたが、また新たな挑戦に身のひきしまる思いです。
では、お目にかかれる時を楽しみに!」
本年2001年は、1901年にチェーホフの『三人姉妹』が初演されてからちょうど100年。
何か不思議な出会いを感ぜずには居られません。
時代の閉塞感・不安感が当時と同じ状況にあるとも言われている現代、
私たちは何処へ向かおうとしているのでしょうか?
『一九一七年の三人姉妹』の登場人物たちも劇中で語っています。
「わかりさえすれば、わかりさえすれば・・・」
新世紀に向け、私たちは新たな一歩を踏み出しました。どうかご期待ください。
2001年 8月 猛暑
制作部 夏 川 正 一