三人娘
〈美しき〉〈聖戦〉〈奮斗記〉

劇団朋友フル回転!!

2000年も終わろうという10、11、12月、
劇団は今までに無いほどの過密スケジュールで、フル回転だった。
10月、中野 ザ・ポケット。スペース公演。『お葉と呼ばれたモデル』
11月、近畿ブロック旅公演。
『わがババわがママ奮斗記』
12月、横浜泉区、テアトルフォンテの公開舞台稽古を皮切りにした旅公演。
新生『女たちのジハード』

三ヶ月の間に3作品。
正確には10月25日の『お葉』初日から、
12月13日の『ジハード』の千秋楽までの50日間の短い間で
合計22ステージというハードスケジュールであった。

3作品すべてに出演している小島敏彦、益海愛子をはじめとして、
出演者、スタッフをあわせてほとんどの人間が、
2作品以上に関わるという状態だった。
そんななか、前回紹介した《新人3人娘》。
それぞれに大役を背負い、どんな活躍を見せたのだろうか。

空気の変わる時
10月某日。稽古も終盤、いざ、中野 ザ・ポケットへという、劇団朋友の稽古場。
大役に挑む新人女優。
今までの自分と違う役柄に挑む中堅俳優。
久し振りの演技に感触を確かめるように稽古するベテラン。
稽古場は不安と期待が入混じった《産みの苦しみ》の中にあった。
しかし、その日、稽古場の空気が変わった。

 一幕三場、お葉がはじめてモデルとして画学生たちの前にその肌をさらす場面。
ヌードが描けることに沸き立つ画学生たち、そこに襦袢を羽織ったお葉が現れる、
息を呑む画学生、
モデル台に足をかけるその瞬間、緊張とも、恥じらいとも取れる表情が
お葉の顔に浮かぶ。
 その時、お葉の正面にイーゼルを立てている久本(DON)を演じる役者は
こう感じていた「お、はるな、ええ演技してるやん」。
お葉がモデル台に上がる。椅子に座る。
「シュル」という音とともに襦袢が滑り落ちる。
その瞬間、空気が変わった。

 「もう、やるしかないって感じッスよね」
稽古の帰り、電車で現代っ子らしく屈託のない笑顔を見せてそう言った彼女。
その中に不安や混乱、そういった悩みを見たのは気のせいではないだろう。
後の打ち上げで、演出家が「本番に突入したという感じ」と言った
『お葉と呼ばれたモデル』は初日の幕をあけた。

 〈現代っ子〉はそこにはいなかった。
白井はるなの演技は、舞台を重ねるごとに良くなっていき、
芝居も日々成長していった。彼女は襦袢と共になにかを脱ぎ捨てたのかも知れない。
 誰かが言っていた
「写真のお葉に似て見えてくるんだよね」。
舞台上に〈お葉〉がいた。

千秋楽。感じていた不安が吹き飛ぶほどの盛大な拍手、
好評と絶賛を受けて幕が降りた。

音色の変わる時
『お葉』から2週間後、三鷹台にある劇団の稽古場。
プロローグで病院の患者役を演じる役者は、点滴を片手にスタンバイをしていた。
と、すぐ傍で「フーッ」と息を吐く音が聞えた。
振り向くと一人の女優がニコリと微笑み、
胸からお腹のあたりを擦りながらこう答えた。
「すっごく緊張する」

『わがババわがママ奮斗記』
主演の長山藍子が芸術祭大賞を受けたこの作品は、全国でも非常に好評を得て、
すでに100ステージを迎え各地への巡演を重ねている。
長山藍子演じる脇坂洋子を中心とした親子三代の物語、
その三代目、智美を演じる女優、上智子。
彼女が前記のセリフの主である。

 入団した年にダブルキャストとはいえ、いきなりの大役抜擢。
入団3年目。舞台に立つのは6月の名古屋公演以来。
約5ヶ月のブランク。様々なプレッシャー。
 稽古ではガチガチだった。
 恐らくいろんな人から言われただろう「いつもどうりやればいいんだよ」。
彼女も思ったにちがいない「いつもどうりやればいい」。
そして、恐らくこうも思っていただろう
「いつものままじゃいけない」

 芝居は生き物。常に変化し、成長する。
そして役者はいつもこう思う「今より上手くなりたい。もっといい芝居がしたい」。
 様々な思いがさらに彼女を固くする。

 舞台稽古。初日。二日目。
気がつくと、袖に、楽屋のモニターに聞こえるセリフが変わっていた。
舞台上には〈智美〉がいた。

旅最終日、本番前の袖で、胸からお腹のあたりを擦りながら
「フーッ」と吐き出した息は、その音色が確かに変化していた。

再生の時
「ここからつくっていこうと思うんです」
 12月13日。『女たちのジハード』の旅公演最終日。
伊勢市の居酒屋〈さかえ〉。
お酒で頬を染め、瞳を潤ませて、しかし真剣な眼差しで、石田まどかはこう言った。

稽古場はさながら火事場のような騒ぎだった。
あわただしく動き回るスタッフ、あふれる小道具。稽古場は燃えていた。
―自らを焼き尽くし、その炎の中から新たに生まれ変わる〈火の鳥〉― 
それはさながら、〈火の鳥〉の再生の瞬間のようだった。

 『お葉』の楽日から『わがババ』の稽古までの2週間。
それが事実上の稽古期間。『わがババ』が始まれば出演者の半数がいなくなる。
『わがババ』が終ったら、その5日後には横浜で公開ゲネプロ。事実上の初日が開く。
脚本は一新。装置は規模を拡大。そんな過酷な条件の中、稽古場は燃えていた。
 その再生の炎の中に石田まどかもいた。

 パソコンで作った小道具を持っていく度、その男は違和感を感じていた。
会う度に「おはようございますぅ」のトーンが違う。
 その再生の炎に彼女は身を焦がしていた。

 入団試験がそのまま〈紀子役〉のオーディション。
まどかのキャラクターが〈紀ちゃん〉だった。〈紀子〉がまどかだった。
 本が変わった。〈紀子〉も変わった。そう彼女は感じた、そしてその役に挑んだ。
だが求められたのはそのままの〈紀ちゃん〉だった。

 最後のステージ、急遽スタッフに加わったその男は、
やっと少し落ちついて、袖から舞台に目を向けた。
舞台上には〈紀子〉がいた。

 カーテンコール。鳴り止まない拍手が続く。
 そして最後に彼女はこう言った。
「ここからつくっていこうと思うんです」

彼女たちの聖戦はひとまず終りを告げた。

〈清野公亘〉