大正時代、竹久夢二をはじめ、
伊藤晴雨、藤島武二という三人の異なった作風の画家のモデルとなったお葉。
本名は佐々木カ子ヨ(かねよ)
〈通称嘘つきお兼〉
秋田から母親とともに上京した彼女は、
生活のために勧められるままモデルの仕事を始める。
大正五年、モデルという仕事がまだ世間から偏見を持ってみられていた時代である。
お葉、13歳。
瓜実顔に、切れ長の大きな目。妖艶な彼女の魅力に三人の画家が筆を走らせる。
今回の芝居のメインになる舞台は、夢二が松沢村松原(現在の世田谷区松原)に建てた
アトリエ兼住居の「少年山荘」(別名:「山帰来荘」)。
この「少年山荘」は現在、岡山の夢二の生家近くに復元され、一般公開されている。
当時としては、非常に贅沢に創られたモダンな洋風建築で、
一階にアトリエの他、パーティールームのような居間を備え、
書生など大勢の人たちが集まれるようになっていた。
5月中旬に、岡山まで取材旅行に行った杉浦氏と演出の吉原廣は、
「夢二が、夢二なりの生き方をしていくんだという
気負い感じさせるような創りをしている」その空間で、
三時間あまりも過ごしイメージを膨らませたという。
「原作では、お葉さんの生き様を追いかけて
夢二とか伊藤晴雨とかとの関係を書いてらっしゃるけど、
今回は少し演劇的に書き加えていきたいなと思っています」と杉浦氏。
少年山荘に、お葉と自殺未遂を起こした小原清次という書生がいた。
「彼を芝居の中心にすえて、彼とお葉との関係の中から
夢二とか晴雨とかとの関係をひもといていこうと思っています。
だから原作とは、ちょっと違った作品になると思います」
叙情作家として一世を風靡した夢二だが、
舞台は、落ちぶれた彼をお葉が訪ねるところから始まる。
「三人の画家を芸術家としてより、
愚かしい側面をいっぱいもった豊かなただの男たちとして描きたい」
とは演出の吉原。
お葉というモデルを巡って、画家としても男としてもせめぎ合い、嫉妬しあった三人。
密接に結び合った男女のドロドロした愛憎劇を、
杉浦作品特有の〈笑い〉を交え二人は、
「芸術論で芝居をもっていくんじゃなくて、
下世話な、人間の原点みたいなところから、実は芸術の光が見えてくる、
というところがちりばめられたらすごく奥の深い作品になるんじゃないか」と。
そして、その中心になった〈嘘つき〉お葉が、
三人の男との関係の中で、どう生きていったのか。
「今の、光の見えない時代を僕らが生きていくのと同じように、
あの当時、お葉さんも揺れ動きながら、振り回されながら生きていくんだけど、
それは実はホントにお葉さんが振り回していたのか、
また、女として生きていくってことで
結構そんなに深く考えて生きていなかったような気もするし、
そこら辺の微妙な女の気持ちの揺れ動きっていうのが、
現代に生きる女性が共感できるのではないかと思っているんですけど」
と語り合った。
今回は、初の試みとして、第一稿が出来上がった時点で
数日リーディングを行う予定だそうだ。
「数日間稽古して試演をし、
それをスタッフを含めこの芝居に関わるすべての人がみて、
第二稿のための討論会を開くというのをやってみたい」と演出家は希望している。
アメリカなどでは、そのような作業を何度も繰り返し、
一つの作品に仕上げてゆくそうだが、
日本の演劇事情としては
「少なくとも一回位はそういうことをして、 皆が、
何が問題なのか、何を大事にしていくのか
ということをはっきりと共有できる状態にして、それを脚本家に託したい」
第一稿は7月中に出来上がる予定。