『ヒンギスは、微笑んだ』
二〇〇〇年は明けて、コンピュータ問題も何事もなく過ぎ、
しかし寒さは二月に入り本来の冬がやってきたなと感じられた
昼下がりのある日だった。
二月の役者は暇だ。八月も暇だった。
暇潰しではないが私は空いた日は、公立のジムでトレーニングに勤しんでいる。
ストレッチ、ジョギング、ウエイト、スウィミング。
まずは自転車漕ぎだ!
10Kmを越して、ふと横を見ると外国の女性が
にこやかにMDを聞きながら自転車を漕いでいた。
・・・・・・マルチナ、ヒンギス・・・・・・。
私の胸の中は、マルチナとヒンギスが繰り返されていた。
そして、なんと彼女は私を見て、微笑んだ・・・・・・。
スロバキヤ語?、チェコ語? 頭に浮かぶのはピロシキばかり。
彼女は一時間ばかり私とトレーニングを共にし、笑顔を残して去っていった。
私は妻に告白した。
妻は、『あのサ、私が台所で食事作ってる時にサ、
ちょっと後ろから尻を触るとか、たまにはしなヨ』
私の話を聞いてはいない。あれは何だったのだろうか?
確かに私たちは時間を共有した。
映画の一場面のように淡いシャドーが掛かったバラの花園の中で、
彼女は私に微笑んでいた。
向井修(むかいおさむ)プロフィール
埼玉県浦和市出身 四十四歳
劇団新人会養成所 卒
普段は寡黙でしぶい男。しかし、いざという時には、
頼りになる兄貴のような存在です。
彼の出演作品には、『ガラスの家族』『帰去来』『パパあべこべぼく』
『チロリンマンの逆襲』『レイターライフ』など多数あり、
『パパあべこべぼく』では、パパと心と身体が入れ替わった少年の役を見事に演じ、
全国公演で長きにわたり高い評価を得ました。
昨年、大好評だった『女たちのジハード』でも、彼の魅力が十分発揮され、
多くのファンを感動させ、今年の再演が決まりました。
私は、役者、向井修の舞台に対する情熱、仕事への集中力、
また個性的な自然な芝居が大好きです。
今後も、彼の活動にぜひ期待してください。
〈松下惇〉